医龍(乃木坂太郎 原案:永井明)


医龍(1) (ビッグコミックス)

■あらすじ
明真大学教授の座を狙う助教授・加藤。
教授と言う組織のトップを目指す加藤はその為の実績造りとして、難関のバチスタ手術論文を執筆。
そしてそれを可能とする天才外科医・浅田を自分のスタッフに招き入れる。
しかし浅田は、組織から最も遠いところにいる、唯我独尊・独立独歩の制御しきれない男だった…

■感想
天才外科医が大活躍する漫画と言うのは多いが、この漫画はその中で院内政治にかなり深く切り込んでいる。
と同時に、バチスタチームを率い難関手術をこなしていくその構成も実に巧み。
難関手術を突破するところは一種のスポーツ漫画のように爽快感がある。

ここまで躍動感のあるチームが描けるのは、キャラクター一人ひとりのアウトラインがくっきりしているからだ。
特にただの無味乾燥とした研修医・伊集院が成長していく姿の描き方は見事。
敵役の野口・霧島といったアクの強いキャラも実によく描けている。

ただ、この作者の欠点と言うか、幽麗塔やギデオンにも感じたことではあるが「そのエピソードいる?」と言うのがやや多い。
伊集院は少しうろうろしすぎな気がするし、霧島の心情も深堀りはされているがいまいち納得がいかない。
なまじ構成が巧みなため「え、そう来るの?」「これからどうなるんだろう」と引き込まれるのだが、その結末がどうも独りよがりなものばかりだ。
この構成力が手術シーンには生かされるが、政治シーンや心情シーンではやや過剰な気もする。

とはいえ画力はトップクラスであり、浅田という野卑で天才と言うキャラも実に上手い。
医療漫画としては斜め上の素材ながらその楽しみ方は王道そのもの。
実に読み応えのある漫画に仕上がっている。

■評価
A
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[ 2020/07/12 21:39 ] 漫画 「あ行」 | TB(0) | CM(0)

日本のタコ学(奥谷喬司)


日本のタコ学

■紹介
日本人にとってなじみ深い「タコ」。
この本は世界中に生息するタコのうち、特に日本近海に住むタコを中心に、タコの秘密を余すことなく書き尽くした本である。

■感想
この本は全体としてみるとやや難関なのだが、最初はタコに対する疑問を誰にでもわかるように分かりやすく説いているため、すっと入り込みやすい。
「タコが夜な夜な畑に出没して作物を盗むって本当ですか?」なんて質問に対しても懇切丁寧に答えたりしている。

更にミズダコの成熟期、未成熟期を詳しく調査し、それと潮流を組み合わせることで、どの時期にどの程度の大きさのタコが取れるかの研究報告もある。
学者の研究が現場に還元される例が分かりやすく書かれており、思わず膝を手で打つこと請け合いである。

タコの育成についても発見がある。
タコは本来用心深いのだが、環境適応能力が異常に高く飼い始めると割とすぐ慣れるという。
特に腹が減ると足を広げて口を見せに来るというのがたまらなくかわいい。

そしてこうしたわかりやすく面白いエピソードを交えつつ、タコと人間の脳の造りの類似性からタコは哲学を持っているかどうか?
という難解極まる話も入っている。
正直この章はかなり歯ごたえがあるので、何度も読み返す必要があるだろう。

そして最後はこれ以上ないほどのカラーのタコ図鑑で占められる。

そんなわけなので中身がかなり濃い本なのだが、そのためか値段も中々にお高い。
しかしタコ道を極めるには避けては通れない本であるのは確かである。

■評価
A-
[ 2020/07/09 19:53 ] 書籍 「な行」 | TB(0) | CM(0)

世界史をつくった海賊 (竹田いさみ)


世界史をつくった海賊 (ちくま新書)

■紹介
18~19世紀に世界を支配した覇権国・イギリス。
しかし元々はヨーロッパの片隅で、羊毛しか売るものなく、少数派のプロテスタント派キリスト教を国教とした、ただの貧相な小国だった。
そうした国がどうして覇権国になりえたのか。
それはがむしゃらに推し進めた「海賊経済」がそこにあった――

■感想
16世紀まではただの小国だったイギリスがいかに成り上がったかを書いた本。
これがまた非常に面白い。
文章が分かりやすく秀逸であり、その文章に説得力を持たせる歴史的・宗教的・経済的背景の描写も実に優れている。
真面目な新書ではあるのだが、まるで一大冒険叙事詩を見せられているかのような錯覚に陥る。

大英帝国の黎明は海賊から始まった。
船舶の技術開発をするくらいならポルトガル船を分捕って自分の国のものにする。
当時ポルトガルが支配していた奴隷貿易を、奴隷船を襲うことでスペインに売りつけ、帰りには砂糖を買い莫大な利益を得る。
同じプロテスタント派のオランダが真面目に開拓した航路をしれっとパクり、アジアへの足掛かりとする。
悪党なのである。それも特大級の。

とにかく国を強くするために、今の常識で言えば非合法にもほどがある方法で、女王自ら関わって強国への道を驀進していた。
そのあまりの必死っぷり、勝利を掴むための貪欲な姿勢、狡猾な外交戦略は嫌味よりもむしろ清々しさすら感じる。

イギリスの国家戦略もまたすごい。
後世にイギリスの名を貶めぬよう、海賊船は私掠船と記載し、海賊は冒険商人と記載した。
盗賊であっても国家公認ならばそれは冒険者となるのだ。

勝利と言う言葉は美しいが、それを掴むには泥をすすらなければならない。
まさしくイギリスは泥をすすりつつ、勝利を掴み取る…というより、鷲掴みにして、引きちぎっていった。
その豪放磊落な姿勢は、今の軟弱な時代からみればあまりにも眩しく、美しい。

ちなみに女王が犯罪行為に加担していた…といった事がわかったのは、過去の歴史の資料によるものだ。
そしてその資料は過去の大英帝国の機密書を、現在のイギリスが隠すことなく逆に大いに開示して明らかになったという。
大悪党でしたが、何か?ということだ。
今の世界で、ここまで開き直れる国が他にあるだろうか。
そこには善悪を超え、世界史を作り上げてきたという自負が感じられる。
こんなことができるのは、アジアなどは問題外で、アメリカですらまだそこまでの自信は持ちえていないだろう。

人権や弱者目線といった上っ面だけのおためごかしはなく、狼は生きろ豚は死ねの生きざまをこれでもかと書き切った本書。
名著である。

少しでも歴史に興味があるならば、必読の書である。

■評価
S-
[ 2020/06/26 22:39 ] 書籍 「さ行」 | TB(0) | CM(0)

特攻の島(佐藤秀峰)


特攻の島1

■あらすじ
太平洋戦争末期、大日本帝国は特攻潜水艇「回天」を以て戦局の打破を目指していた。
回天の操縦を学ぶ島。そこに一人の絵の好きな青年が配属される。

■感想
佐藤氏の作品はそのほとんどが人間の生と死、生きる意味と死ぬ意味がテーマとされている。
この作品はその中で死ぬ意味について描かれた話と言える。

こう描くと何やら重そうな話であり、確かに重苦しい描写だらけなのだが、それを伝える手腕はさすが練熟の出来である。
重すぎて嫌になることもなく、鬱になることもなく、純粋に好奇心が刺激され、ぐいぐいと飲まれていく。

最初は特攻と言うものに対し漠然とした思いしかもっていなかった主人公・渡辺。
その彼の死を否定する側面を代弁した友人関口は、死を以て潜水艦を逃がすことで渡辺達に生かす意味を与えた。
次に渡辺に死んで貰うために。

当時の日本は、青年に死を強いた。国を守るためにと。
だが渡辺が守るべき家族は空襲で死亡、彼が死ぬ意味はなくなってしまったのだが、ここからむしろ彼は死を願うようになる。
それは敵に一矢報いるという復讐なのか、あるいはやけっぱちなのか、あるいは生きる意味を死に見出したのか。
このあたりの心理の遷移に、文字通り手に汗握る敵艦隊との戦闘、そこにいる人々の心理、葛藤、ドラマ、全てが高レベルだ。

この作品に敢えて文句を言うとしたら、氏の過去作に比べてデジタル色が強く描写にいい意味での荒々しさが少ない事。
またラストの士官たちの涙がどうも独りよがりな所くらいだろうか。
前者はともかく後者は読み手のセンス的なものもあるので何とも言えないが。

とはいえ、この作品は素直におススメできるかと言うと、どうもそんな感じではない。
そこまで軽い漫画ではないというか。
重いのだが、近年のどの漫画よりも熱いことは確かだ。

■評価
A-
[ 2020/06/21 00:00 ] 漫画 「た行」 | TB(0) | CM(0)

光と影 (渡辺淳一)


光と影 (文春文庫)

■あらすじ
明治初期、西南戦争において陸軍大尉の小武は同期の寺内とともに腕に銃創を受ける。
時代的にともに切断が要される症例だったが、小武の切断手術の後に手術をした寺内は切断をしないでおく治療だった。
それは単に医者がカルテの順で決めたただの思いつきであったのだが…
他4編を収録した、渡辺氏初期作品の短編集。

■感想
ちょっとした気まぐれで大きく変わってしまった二人の境遇を描いた「光と影」は直木賞を受賞している。
いわば渡辺氏の文壇の地位を確立させた作品であるのだが、かといってそんなに光と影というほど二人の差は無いと思う。

寺内は確かにほとんど動かせないとはいえ腕を残したが、腕を切断した小武にしても退役軍人クラブでそれなりに上り詰めている。
家族もいて家もあり出来る娘もおり、一般人からすればはるかに高みにある存在であろう。

その高みにいる存在でさえも、ひそかに軽んじていた寺内が最終的には総理大臣にまでなる…それは我慢ならないことであった。
小武がそこらの人よりもはるかに有能でできる男だったからこそ、後半の精神病院入りという展開が際立つ。

この作品の見事なところは、他人からすれば大して差がない事でも本人にとっては天地の差がある。
それを明治時代という時代背景、医療という作者の得意分野を生かして描き切ったところに凄味があるといえる。

とはいえ正直物足りないものもあったのは確か。
満足できたのは、ラストを飾る短編「薔薇連想」であろうか。

梅毒をうつされた無垢な女性。だがうつした相手は病死してしまう。
ここで女性は梅毒という血を他の男と寝ることで広めていく。
それを悪女と言い切るにはあまりにも、彼女は寂しがりやだった。
自分と同じ種類の血を持つ人々を増やしていくことで、その寂しさを紛らわしたかった。
どんなに穢れても、彼女はずっと無垢な少女のままであったのだ。
その可憐な自己矛盾を描き切った本編は、傑作である。

総評として、中々に楽しめる短編集であった。

■評価
B+
[ 2020/05/11 03:43 ] 小説 「は行」 | TB(0) | CM(0)